2016年02月01日

少子化も子育ても「動物」視点で考えてみると・・・【旭山動物園 園長 坂東 元氏/月形大谷幼稚園閉園記念講演会】

夕べから降り続く雪は、モサモサ、シンシン、サワサワと、今シーズン一番の降り。公式記録では45cmですが、もっと降っている感じです。

この雪のように1月は次々と仕事があり、腰を落ち着ける時間がない程。その分、たくさんの出会いがあり、学びがあり、充実した時間でした。雪のように絶え間なく降り注がれた学びや情報は、芽吹きのためのエネルギー。2月、暦が春になるように、与えられたエネルギーを「未来」や「まちづくり」に活かすべく、様々な視点からじっくり考えていきたいと思います。


さて、報告第1弾として・・・
1月30日(土)に開催された、月形大谷幼稚園 閉園記念講演会。講師は旭山動物園の坂東園長で、テーマは「つたえるのは いのち つなぐのは いのち」

たくさんの人が集まったのは言うまでもありません。お話しが盛り上がり、当初予定の1時間半から30分も延長する程(坂東園長はもっともっと話したそうでしたが、これ以上の時間の延長ができずに断念)。動物の飼育を通して感じた生きものの「生」と「死」、そしてそこから考察する人間社会の現実など、実に興味深い内容でした。(講演中は写真撮影禁止だったので、雰囲気が伝わらなくてゴメンナサイ。)

以下、私が気になった点をまとめてみました。
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■命は皆同じ:虫、愛玩動物(ペット)、家畜、野生動物
・坂東園長は子どもの頃、虫やザリガニなど生きものに興味を持ち、次に文鳥を飼うように。小鳥を診てくれる獣医がいないために次々死んでいくのを見て、獣医になることを決意。
・酪農学園大に進んだことで、あつかう動物は牛と豚。ともに家畜として長年改良され、必要な部位が特異化するよう人が作り替えた動物。生きものとしても変化していると思っていた。しかし(寿命が10年以上ある豚が)肉になるために半年で「死」を迎える時、涙を流す姿を見て「同じ生きもの」「同じ命」なんだということを再認識した。
・就職先が動物園で、野生の動物を扱うことに。いくら飼い慣らされていても動物園の動物は野生を失っていない。間に檻があることで「お互い対等な生きもの」として認めてくれるものの、ひとたび相手の距離(檻のない関係)になったら、食物でしかなくなり確実に襲われる。
・人と動物は、ともに「自立した命」。

■動物は嫌いなものを排除しない。嫌いでも認めれば一緒に暮らせる。
・野生の中では、様々な動物が共存している。捕食関係にあっても同じ場所で暮らしている。

■行動展示の原点は、動物が居心地良く。
・旭山動物園が廃園の危機にあった頃、何のために動物園があるのか?と疑問に思っていた。
・動物は本来住んでいる環境や社会性から隔絶され、狭い檻でたった一人、何十年も暮らしている。もし人間が同じように狭い部屋に一人で押し込められ、何十年もそのままなら・・・何もしたくなくて当然。そういう状況を作っておきながら、来園者が「つまらない」「飽きた」と言って見向きもしなくなったら(来園者が減ったら)廃園にしてしまっていいのか?
・何のために動物園があるのか? 動物には命がある。人間にはそこに閉じ込めた責任がある。
・閉じ込められた動物は、何をしたいのだろう? 自分がその動物だったら、どんなことをしてみたいかを考えた。→ 居心地の良さ。ありのままの姿。→ 好奇心旺盛なヒョウ、ペンギン、アザラシには好奇心を満たすように。カバは自然の川で泳ぐように。

■安全・安心の環境は誰のため?
・安全・安心の環境は、動物本来の能力を使わなくても生活できるようにしている。ということは、動物本来の可能性の芽を摘んでいる。魅力がなくて当然。その状況を作っておきながら「つまらない」「かわいそう」と言う矛盾がある。
・本来の姿を取り戻すには、能力を開発する必要がある。
・危険が伴っても、動物が持つ本来の能力を開花させた方が幸せなのでは? 
・人間も同じ動物。人間の子どもにとって、安全・安心な環境は果たして最適なのか?

■動物の世界では、ただ「仲良し」という関係・社会はない。
・動物はイヤだと思えばケンカをする。問題をその場で発散し解放することで、また仲間・仲良しに戻れる。
・人間の子どもはどうか? 監視社会が発達し、考えたり、感じたりすることができない、あるいはケンカが許されない環境になってしまった。子どもの気持ちをどう解放するのか?

■安全な環境を作ると、親は子どもを見なくなる。
・危険な場面があるからこそ、親は子どもから目が話せない。何をしてもケガをしないような場所にいたら、子どもを自由奔放に遊ばせ、親は子どもを見なくなる。
・危険な環境だからこそ、危険を回避する親の判断、親の責任が重要になる。(安全しかなければ親の判断も責任もなくなる=無責任な親の誕生)

■繁殖は難しい。少子化対策のヒント
・その場所が「命をつなぐことができる場所」だと認識しなければ、繁殖は成功しない。
・ペアリングが上手くいっても、繁殖が成功するには更なるハードルがある。
・少子化の問題と共通しているのでは? 現代社会を「命をつなぐことができる場所」だと認識できていないのではないか。安全・安心が必ずしも「命をつなぐことができる場所」ではない。

■動物の子育ては、他と比較はしない。自分の子のみを見つめる。

■動物の愛情は深い。(例:オランウータン)
・動物の愛情は、見返りを求めない。愛を注ぎ続ける。
・愛することは見守ること。
・愛は味覚を育てる。離乳期、母の胸に抱かれた子どもは、食事中の母親の口の中に手を入れ、食べているものを取り出すようにして食べる。同じモノを食べることで味覚を育て、ジャングルの中で食べられるものが何なのかを学ぶ。味覚が育つと同時に、生きる術を学ぶ。

■命を終わらせてくれる仕組みの中で、命が溢れているのが「自然」
・命は、たくさんの命の上に成り立っている。
・死が、次の命につながっている。
・死を大切にできないなら、命を大切にすることはできない。
・個体によって死の場面は違う。個体らしく生きる。

■命に責任を持つ=何も隠さない=全ての情報を公開
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坂東園長の経験から導き出された思考と考察は、全てに納得させられるものでした。

少子化の問題もしかり。安全・安心の社会が行き着く先もしかり。情報公開模もしかり。様々な動物が暮らす動物園は多様性の宝庫であり、人間社会の縮図かも。絶滅を防ぐために繁殖に取り組む動物園の使命は少子化対策のヒント!ですね。

今回の講演で動物園の学術的な価値、社会的価値に気付けたのは、私にとって大きな意味がありました。講師を務めてくださった坂東園長にも、講演会を企画してくださった月形大谷幼稚園にも感謝です。ありがとうございました。

幼稚園が閉園することを時代の流れと受け止め、その精神を将来にも引き継いでいくために、私たち大人が、子ども達の周りの環境を整える必要がありますね。


comments

旭山動物園の園長さんのお話が、「動物を育てることを通してみえる人間社会」ならば、昨晩NHKで21時から放送されたNHKスペシャル「ママたちが非常事態!?~最新科学で迫るニッポンの子育て~」は、出産後の母親が感じる孤独感・自分はダメな母親ではないかという焦燥感がなぜ、生まれるのかについて、動物社会では、仲間で子どもを育ててきたのに、ひとりでとなった人間の孤独との科学的分析でした。
相通ずることなので、書かせていただきました。

  • 長門 真理
  • 2016年02月01日 20:49

  •     

長門さん、コメントありがとうございます。

私自身も一人目の出産時は基本一人子育てみたいなものでした。都市部に住み、夫は会社で私は主婦。近隣に頼れる人もなく頼ることも知らない。むしろ人に頼らずに子育てすることが自立した大人だと信じていたからです。北海道に移住して近隣で声をかけてくれる人が現れ、少しだけ甘えることができましたが、頼る程にはならなかったですね(私自身が頼ることに抵抗を持っていたから)。

今考えてみると「社会で子育てする」ということを「公共が支援する」と取り違えていた部分があります。個人でできななら、行政が補完するのが当たり前というもの。個人と行政との間には「契約・仕事」のような割り切った関係性が必要で、それは必ずしも「信頼して頼る」という精神の問題とはつながらないですよね。公助は必要であるけれど、それだけでも満たされないから、今も孤独感や焦燥感があるということなんでしょう。

人間が動物として本来持っていた「社会的な子育てシステム」は、もっと多様で柔軟で親密なものなのかもしれません。だとしたら、現在のシステムで不足している部分を補う「共助」的な部分をもっと膨らませなければなりませんね。あるいは、もっと違う関係性なのかも。坂東園長の話から様々な方向に考えが広がっています。

NHKスペシャルの再放送(2016年2月3日午前0時10分〜)を確認します。

  • 宮下ゆみこ
  • 2016年02月02日 12:17

  •     

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